絨毯・キリムのモチーフに込められたメッセージ
〜Motifs & Symbolizm, Beliefs & Superstitions〜


アナトリアの絨毯・キリムには、様々なモチーフが使われています。
長い長い年月の間に簡略化され、極度に抽象化されてもとの姿とはかけ離れたものになっているものもありますが、それぞれに象徴的な意味を持っています。

じゅうたんやキリム織りが廃れてくるにしたがって、本来の意味が忘れられてしまったものも多いのですが、かつて、どこの家庭でも嫁入り道具として、また自家用に女性たちがキリムやじゅうたんを織っていたころには、さまざまなモチーフを組み合わせたキリムを織ることで、自分たちの想い・メッセージを伝えることもできたそうです。

キリムやじゅうたんは遊牧民の暮らしの中で息づいてきたもの。
そのモチーフもおのずと遊牧民の生活に関わるものが多く、家族の安全を願ったもの、魔よけ、豊穣や家畜たちの繁栄、子孫繁栄を願ったものがほとんど。そして女性たちの一大イベントである、結婚にまつわるロマンチックなものもたくさん使われてきました。

下記にご紹介するモチーフとその意味は、それらのほんの一部分です。
モチーフの解釈は決して一つではなく、また伝わる家々でも少しずつ違っていますが、女性たちがどんな想いでキリムを織り進んでいったのだろう?といろいろご想像になる参考になれば幸いです。


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 エリベリンデ
両手を腰に当てた女性像

大きく張り出した腰は母性、生命力の象徴。子孫繁栄を願うモチーフで、起源はイスラムよりもはるか昔の地母神(キベレ)信仰に基づくものと言われています。
左から2番目のモチーフは、上下対称化したもの。

  
 コチボユヌズ
雄羊の角

雄羊の角は男らしさや勇壮さ、力強さの象徴。未来のだんな様がいろんな面において、力強い人でありますように♪との願いの込められたもの。転じて子孫繁栄を願ったものとも言われます。


 ベレケット
豊穣への感謝

主に上のエリベリンデとコチボユヌズモチーフが組み合わさったモチーフで、豊穣など恵み多きことへの感謝の気持ちを表したモチーフです。

サチバーウ
髪飾り・ヘアバンド

アナトリアの花嫁は豪華な髪飾りで晴れの日を装うことから、髪飾りのモチーフは結婚への憧れを表しているといわれます。

    
 サンドゥク
衣装箱・箪笥
花嫁道具を大切にしまっておく衣装箱・嫁入り箪笥は、女性たちの結婚への憧れ、また幸せな結婚生活を表したもの。 まだ小さな子供のころから、大切な品々を晴れの日を想いサンドゥクの中にしまっておくのです。
サンドゥク自体も美しいキリムで作られます。


パルマック  タラック
指・手               櫛
手・指のモチーフはイスラム世界でマホメットの娘ファティマの手の象徴で、繁栄を表すもの。一方櫛は絨毯・キリム=花嫁道具を織る道具から転じ、結婚への想いがこめられたものといわれます。

 
 イン・ヤン
陰陽・巴(ともえ)

光と影、太陽と月を表すことから転じて男性と女性を表すモチーフ。夫婦の関係の良いハーモニーを願うモチーフ。日本の巴に当たるものです。

  
 ブカーウ
足かせ・フェッター

家畜たちをつないでおく足かせのモチーフ。つなぎとめる=夫婦や家族の絆の象徴、好きな人とずっと一緒にいられますように…という願いの込められたもの。また、男女のつながりの結果=子供の誕生を表すモチーフでもあります。


    
 カズアヤーウ
ガチョウの足

生涯つがいで添い遂げるガチョウの足は、ず〜っと夫婦仲良く暮らせますように♪という願いの込められたものといわれています。

 プトラック
ゴボウ

地中深くまで根を伸ばすごぼうは、安定の象徴。また、どこにでもくっつくイガイガのある実は魔除けの効果もあると信じられているもの。

  
 アクレップ
さそり

遊牧民の大敵であるサソリのモチーフをつけることで、そのパワーを得たり、また、それらから身を守る、と信じられています。


  
 エジデルハー
ドラゴン・竜

東方の山に住むというドラゴンは、水と空気をつかさどる想像上の生き物。天国に生えているという生命の樹を守る役目も担っているのだとか。豊かな豊穣を意味するモチーフです。
右端のモチーフは、ドラゴン(もしくはモンスター)の足跡、とも呼ばれます。


 
 チチェッキ

カイセリやシワスのキリムによくみられるモチーフ。
自然への賛美を表すモチーフです。


 ユルドゥズ

夜空に輝く星々は、織り手の幸せを表したもの、また願ったもの。

 
 ス ヨル
流れる水

ジグザグラインであらわされる流れる水は生命の水モチーフとも呼ばれ、川の流れのように幸せや命がずっと続いて行きますように…との願いの込められたもの。
また、水は生命にとってかけがえのないもの。命の大切さを表したものとも言われます。


 クシュ

羽ばたく鳥は良い知らせを運んでくれる吉兆。またつがいの鳥は夫婦円満のモチーフ。生命の樹から飛び立つ鳥は、天国への旅立ちをあらわします。


 
 ハヤットアージュ
生命の樹

イスラム世界のパラダイス=天国に生えているという生命の樹。天上世界への想いがこめられたもの。
しばしば上下逆向きに織られたり、飾られることもあるのですが、これは天国からのパワーが地上に降りてくると信じられているからだとか。


   
 ムスカ
お守り・護符・アミュレット

女性たちが身に着けている魔除けの護符をかたどったもの。しばしばお祈りの言葉が入れられるものものも。アクセサリーとしても使われるため、イヤリングのモチーフとも呼ばれます。

 クルトアーズ
狼の口・足跡

大切な羊を狙う外敵の象徴である狼のモチーフをつけることで、狼よけ=外敵から身を守る意味があります。一方でトルコ民族は狼の生まれ変わりとも信じられています。


 チェンゲル
フック 

邪悪なものにフック=かぎをかけてしまい込んでしまおう、という魔除けのモチーフ。

 ギョズ
目・邪悪な目・邪視よけ

ナザールボンジュウ同様、災いをもたらすねたみ、うらやみの視線=邪視除けのモチーフ。


   
Source:Anatolian Kilims etc.

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